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In the Flesh - Live/Roger Waters [洋楽]

タイトルからして『In the Flesh』(しかも『?』のついていないどぎつい方)なわけだし、豚やら皆既日食やら壁を連想させる建物が描かれてるんだから、期待してしまうわけですよ、『あー、フロイドをやってるんだな』って。そりゃ興奮するなってのが無理っしょ(笑)・・・

Roger-Waters-Live-In-The-Flesh-Frontal-DVD.jpg

 


ぼくの仕事、あるいはこれまでのキャリアを通じてロにしてきたコメントを良く覚えている人なら誰でも知っているように、サッカー・スタジアムでのロック・ショーをぼくは毛嫌いしている。
アリーナというものは、スポーツ、政治集会、そしてビリー・クレアム的な復活の儀式には完璧である……つまり、神とサッカーにはぴったりかもしれないが、ロックンロールにもその大きさがふさわしいとは思わない。
ロックというものは常に、パフォーマーとオーディエンスとの間にもっと遥かに深い親密度と接触が許されるような環境において最も機能してきたからだ。
9万人もの前で演奏するという行為には、そこに関わるすべての人間から最悪な部分を引き出してしまうような何かがある。パフォーマーに関して言えば、その人格の中でも特に、人の注目を集めることばかりを考えるような幼稚な部分が助長され、権力や地位といった要素により多くの関心が向くことになる。
オーディエンスもまたそのイベントの大きさによって脇役に追いやられ、肝心の音楽そのものを楽しむことは一番後回しにされてしまう。
そこにつながりはもうない。その喪失を特に強く感じたのは、『狂気』の成功以後のことだ。(以下略)
(ロジャー・ウォーターズ 翻訳:野村伸昭)


これは同じライブを収めたCDのライナーに載っているロジャーのコメントの抜粋なんだけど、アルバム『狂気』の成功で一気に巨大化したバンドの中で感じた聴衆との『壁』を語りつつ、こりゃかなり皮肉も入ってるなって気がするのは僕だけでしょうか?皮肉の矛先はもちろん、巨大スタジアムに驚異的な光の洪水を浴びせ、完全にアミューズメント化されたバンド。
そう、D.ギルモア率いる『ピンク・フロイド』ですけどね。考えすぎかなぁ(笑)

でも実際のところ、ロジャー自身には『狂気』以降の作品コンセプトをひとりで創ってきたという絶対的な自負があって、要といえる存在の自分が脱退したにも関わらず、ピンクフロイドの名前を(法的には和解とはいえ)ギルモアに持って行かれた現実ってのはロジャーにしてみれば、その心境たるや絶対に受入れ難い怒りと敗北感以外の何物でもなかったんだろうと思うし、21世紀を目前にして、いざ自分が漸くフロイド時代の自作曲を演奏記録するってことになると『あの似非フロイドにはひとこと言わないと気がすまねぇ』って気持ちを抱えてたのは想像に難くない気はするんだよね。まぁ、ぼく個人的にはギルモア・フロイドのあれはあれで心底楽しめるし、DVD『驚異』(別記事あり)なんかはロック映像作品の歴史的名作だと思ってたりするので、頭脳(ロジャー)が演じるフロイドと肉体(ギルモア)が演じるフロイドの両方とも歓迎出来ちゃうクチなのでお得ではありますがね(笑)。
この5年後に突如実現したLIVE8での復活劇は確かに感動的ではあったけど、今はギルモアなんかは『もうピンク・フロイドでの活動は無い』なんて明言しながらフロイドの曲をソロでやってたり、リック・ライトは天国に往っちゃったしで、あらゆる意味で4人での再結成はもう無いわけだから。

それにしてもこのライブのロジャーはかっこいいぞ。かっこいいだけで済ましちゃったら熱心なファンの方から叱られそうだけど、めちゃくちゃかっこいいですわ。歌いかたも風貌もバンドリーダーとしての立ち位置も、何もかも。
数を背負い、巨大スタジアムでステージセットの限界に挑むことによって聴衆を楽しませる事に徹したギルモア・フロイドを(極めて良い意味での)軟派だとすれば、ロジャー率いるこちらのフロイドは、すげぇ硬派だなって印象。この巨大過ぎないロックショーの構成は、『THE WALL』の楽曲から(『THE FINAL CUT』からも一曲)、『ANIMALS』、『炎』、『狂気』へと遡って演奏されるフロイド・ナンバーと、後半からは『ヒッチハイクの賛否両論』や『死滅遊戯』などのソロアルバムからの数曲に加えて新曲が一曲。『In the Flesh』や『Southampton Dock』はいわずもがな、ロジャー色の強い『Mother』や『Dogs』なんかはギルモアの方では絶対にやらない曲だろうから、それを再現できる『もうひとつのフロイド』となればロジャーしかいないわけだ。逆にギルモア以上に確執が深かったとされるリック・ライト作の『The Great Gig in the Sky』や『Us and Them』もここでは演じられていないし、『狂ったダイアモンド』ではきっちりとpart9だけが省略されている。こういった選曲だけを見ても、ロジャーの頑固さが伺えるあたりが興味深いが、頑固を貫いた分だけサウンドにも懐古的な生ぬるさは全く感じられない。
まるで映画俳優のような(リチャード・ギアみたい)スリムな長身にダークスーツ、まだふさふさの頭髪。目を細めて呟き、そしてプレシジョンベースを抱えて時には拳を空に向けながら叫ぶように熱唱するさまからは、『狂気』以降のピンク・フロイドを再び頂点に導いた自負が滲み出ているように見えるし、『Mother』の演奏前にアコギを運んでくれたクルーに丁寧にお辞儀するあたりなんか、かなり気分の良いライブだったんだろうね。きっとロジャーと聴衆の間に『壁』は無かったんだろうな、と思う。だって楽しそうだもんね、あの偏屈完全主義のロジャーが。
『Wish You Were Here』の終わりでロジャーが呟いた『I wish they were here』というMCも、意味深といえばかなり意味深だったりするんだよね。
彼らがここにいてほしい・・・・・いったい、どういう意味で言ったのでしょうかね?

ベストトラック
5.Mother
9.Dogs
17.Pros and Cons of Hitch Hiking, Pt. 11 (AKA 5:06 AM- Every ...)







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漢

ホント似てる……!外は春の陽気なのに……心がせつなくなる感覚は何だろう……コーラスもナイス!
by 漢 (2009-04-23 11:06) 

土佐のオヤジ

ほ~っ・・。
ロジャー・ウォーターズってこんなにカッコ良かったかしら?
どうもオヤジはピンク・フロイドの頃の怖い顔した大男のイメージしか無いんだよね。(笑)
でも、この人の音楽は変わってない。
プログレの申し子なんだなぁ~って・・・。
素晴らしいと思います。
by 土佐のオヤジ (2009-04-23 12:45) 

nexus_6

I wish they were here. ロジャーが言ったとは...
彼も歳をとったということでしょうか。
by nexus_6 (2009-04-24 00:03) 

なちゃ

・漢さん、ありがとうございます。
ね、似てるでしょ?どちらも切ない歌です・・・・

・土佐のオヤジさん、ありがとうございます。
そうそう、ロジャーって気難しそうなデカ顔な男って印象ですよね(笑)
こんなに渋くなてて驚きました。かたや美男子だったギルモアの方は・・・(笑)
ロジャーの音楽は、ちょっとした文学を読むようなものですかね。

・nexus_6さん、ありがとうございます。
『ここに』が、ステージ上なのか客席なのかで、意味が大きく変わってきますね。
前者なら丸くなったってことでしょうし、後者なら皮肉を込めているのかも・・・・
そこらへんも含めて、なにかと深いバンドですね、フロイドって。
by なちゃ (2009-04-25 00:32) 

なちゃ

niceをくださった皆様、ありがとうございます。
by なちゃ (2009-04-25 00:32) 

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