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Blue's Moods/Blue Mitchell [JAZZ]

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1960年のある夜、ひとりのトランペッターの夢枕にジャズの神様が現れた。

『おまえさん、こんどのレコーディングで『I'll Close My Eyes』を吹いてみな、きっといいことあるぜ。
なぁに、おまえさんは良いペッターだ。いつもどおりに、吹けばいいんだよ
[ぴかぴか(新しい)]。』

タバコをぷかぷかとふかし、神様はトランペッターにそれだけを告げると、ニヤニヤと笑い、フンフン♪と鼻歌を歌いながら消えてしまった。
目を覚ましたトランペッターのベッドの脇には、見知らぬ銘柄のタバコの箱がひとつ。。。
レコーディングの日、無口で地味なそのトランペッターは『I'll Close My Eyes』の譜面を携えてスタジオに向かった。神様が忘れていったタバコを内ポケットに入れて。。。

レコーディングは順調に進んでいた。次はいよいよ『あの曲』だ。
ディレクターのキューを見るや彼はタバコに火を点け、ころころと愛らしいイントロに促されてマウスピースを口にあてた。
曲は『I'll Close My Eyes』。
とめどなく溢れ出すアドリブラインは、明るくてどこか哀愁を帯びた音色を纏った美メロの数珠つなぎとなり、それに伴奏の名手ウィントン・ケリーが見事に反応し、軽快に音の隙間を埋めていく。。。
そして『I'll Close My Eyes』はトランペットのワンホーン屈指の名演となり、傑作『Blue's Moods』が生まれ、多くのジャズファンがブルー・ミッチェルの名を『いぶし銀』という形容とともに心に刻むことになったとさ。めでたしめでたし。

もちろんこれは、作り話である。しかし、こんな風に思えてしまう程に、ブルー・ミッチェルの艶やかで哀愁に満ちた音色が、本作の冒頭を飾る『I'll Close My Eyes』に、神懸り的なほどにバッチリとはまっている。

ブルー・ミッチェルは1930年生まれ。高校時代にトランペットを始め、長い下積み生活で腕を磨き、ホレス・シルヴァーのグループで活躍した。そのスタイルは、超絶技巧やハイノートをビシバシ決めて聴き手を唸らせたり、革新的な手法でジャズ界の先頭を突っ走るような芸術家というよりは、奇を衒うことなく聴き手の琴線に直接触れるようなフレーズを紡ぎ出し、トランペットの中音域の一番いい所を狙って吹ける技術を持った、そんな職人のような印象を受ける。
1960年、モードジャズやフリージャズの流れが押し寄せる中、ジャズの神様が望んだのは、『凄い音楽』や『新しい音楽』ではなく、本当はこんな"粋な音楽"だったのではないだろうか?
暑さの退いた夜、ビールで少々酔いながら、円やかで心地よいトランペットの歌を聴かされると、そんな妄想を抱かずにいられないのだ…

ベストトラック
1.I'll Close My Eyes
6.When I Fall in Love
3.Scrapple from the Apple


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