さよならバードランド/Bill Crow Quartet [JAZZ]
ビル・クロウ著、村上春樹訳の『さよならバードランド』を少しずつ読み返している。著者のビル・クロウはジェリー・マリガンのカルテットやスタン・ゲッツやズート・シムズなどなど、多くのミュージシャンとの共演歴を持つジャズベーシストである。内容は著者のミュージシャンとしてのいわゆる半生記であり、1950年代から1960年代にかけてのジャズが最も輝いていた時代に、著者が出会い共演してきた多くのミュージシャンとの興味深いエピソードが46章にわたって日記風に綴られている。さらには小説家であり無類のジャズマニアでもある村上春樹の訳と挿画が和田誠というのだから、とにかく面白い。ジャズに関する読み物としては無敵と言っていいかもしれない。ぼくが所有している本は初版のハードカバーで、500頁にも及ぶ分厚さだからとにかく重いのだが、文庫本にもなっているらしいのでそちらの購入も考えている。
ずっとずっと昔、僕がジャズをジャズだと意識して聴き始めるよりも前に、ラジオで初めて聴いた素敵な演奏。曲名も誰の演奏だったかも全然覚えていないけど、覚えているのがラジオで男の人が喋っていたキーワード。
『ジ ャ ズ っ て い い で す ね ぇ ...』。
ジャズ?ジャズって何?この曲のこと?楽器を弾く人のこと?こんな音楽のこと?
そんな僕にとって人生最初のジャズは、今となっては何のヒントも無く、その曲を探す術もないのだが、子供の僕に『なんだかわからないけどジャズはとっても素敵な何かである』という印象を植え付けるには充分だった。
ビル・クロウの初リーダーアルバム『さよならバードランド』は、同名の著書の発売に合わせて録音された。ある意味『緊張感を持った演奏を良しとする』きらいのあるジャズであるが、ピアノレスで代わりにギターを加えたカルテットという編成で、実にリラックスした演奏を聴かせてくれる。上で書いた本を読み進み、このアルバムのことを知って聴いた時、ちょっとした既視感ならぬ既聴感のような感覚に見舞われた。もちろん子供の頃にラジオで聴いた『あのジャズ』が、このアルバムの演奏である筈がないのだが、音楽に目覚めてやがてジャズに出会い、ジャズの名盤ガイドの本を頼りにマイルスだのロリンズだのエヴァンスだのコルトレーンだのと、訳知り顔で小生意気にもレコードを聴き漁り始めた少年の頃に、僕がジャズという音楽に対して持っていたイメージにぴったりと合っていたのだ。
ウッドベースを担いで明け方のブロードウェイを歩くクロウ本人のジャケット写真も素敵だが、ゆったりとしたシンバルレガートに乗ったレイジーなテナーのサブトーンとナチュラルなギターの音色が織り成す重くないスイング感が、いかにもジャズって感じがして僕は大好きだ。僕が好きなジャズ、まさにジャズ、これぞジャズ、ジャズ以上でもジャズ以下でもない絵に描いたようなジャズ。。。『さよならバードランド』にはそれがびっしりと詰まっている。
ベストトラック
1.From Birdland to Broadway
10.Night Lights
7.Just Friends
nexus_6さん。niceありがとうございます!
by なちゃ (2008-12-07 23:23)