SSブログ

別れの季節と、ひかり419号 [myblog]

さぁ、お土産も買ったし帰るとするか…大阪へ。SA3A0157.JPG

今回の東京出張で、お世話になっている客先のMさんが9月で定年退職されるのを知った。
Mさんは客先企業のシステム部門所属の老兵であり、僕が今の業界で仕事を続ける限り忘れ得ぬ人でもある。
2年前に役職定年を迎え部長職を退き、今は『管理本部長付のなんたらかんたら』とかいう憶え難い肩書きを持っている。
早いもので、僕が今のシステムに携わるようになった10年ほど前からのお付き合いになる。

Mさんは、仕事上でとても恐い人だった。いや、今でも恐い。いつも算盤を持っていて、なんでもかんでも手書きで済ませようとするし、呆れるくらいに渡したはずの資料を無くす。おまけに口は悪いし巨人が逆転負けでもした日にゃ、電話口での機嫌が滅法悪くなる。
ユーザーの立場で突き付けてくる無理難題には定評があって、今僕がいる職場では避けて通れない『泣く子も黙る存在』なのだ。そして尊敬できるスーパーマンでもある。
その脳内には、おそらく自社システムのあらゆる仕様と物流のノウハウが詰まっていて、あとは大好きなプロ野球の事・・・・
僕がその客先の仕事をするようになった頃は既にMさんはその巨大なシステムを知り尽くし、守りながら熟成させようと奮闘していた。

『このバカヤロウ!!あんたじゃハナシになんないよ・・・』

Mさんとの仕事を始めて幾日か経ったある日、会議の席でMさんは僕にこう言い放った。まだ若かった僕には、このパンチは喰い込むように効いた。実際にその仕事で僕は何も貢献出来なかったし、そのときの自分の無力さは、今思い出しても悔しくて仕方がない。
それから僕は、物流業というモノを、そのシステムを、そしてそれを動かすN社製の独自OSを一から勉強しなおした。
おそらくだけど、人並み以上に、頭だけでなく全身を使って…ただMさんに認めさせたいがためだけに、必死になにもかもを頭に詰め込んでいるうちに、やがてMさんとの仕事は増えてゆき、もちろんそれに比例して仕事上の修羅場も数え切れないくらい経験させてもらった。
そしてその答えは数年後に、東京での酒席で正面に座ったMさんが出してくれた。

『なちゃさんには、頭が下がるよ。頼りになるいい男だよ、あんたは…』

ビールを注がれた僕は、軽く落涙した。
大袈裟かもしれないが、今こうして手に負えないほどの量の仕事に埋もれながら、職場では少しだけ偉そうな顔をしてられるのは、それが間違いでなかったのだと、信じて疑わないでいる。

昨日の東京での会議の合間、喫煙所でMさんはロングピースを燻らせながら独り言のように言った。

『俺はもういいんだよ。充分やってきたからさ。あとは若い人たちでやってもらわなきゃだめ。その時になったんだよ』

Mさんは、4月からは後進の指導のため第一線から徐々に退くという。

51bvGUT9h-L._SL500_AA240_.jpg


東京を背に走るひかり419号の座席に座り、僕はBruce Springsteen『Working on a Dream』を聴きながら、これまでにMさんと遂げてきた仕事のことを思い出していた。
おそらく僕の何十倍も働いて働き続けた日々の中で、仕事とは何だったのか、夢は何だったのか、本当に燃え尽きたのだろうか。もう一緒に仕事をする機会がないのだという思いに、何度目かのピークを思わせるボスの歌声が輪を掛けてしまい涙が止まらなくなった。だけど、Mさんが去る半年後に笑顔でいるためには、今こっそりと泣いておく方がいいのかも……と、思った。

あと半年の間に、もしMさんにお会い出来れば、その時は一杯でいいからビールを注がせてもらいたいと思うんだ。
これまでのお礼のかわりに。




nice!(8)  トラックバック(0) 

nice! 8

トラックバック 0

トラックバックの受付は締め切りました
別館オープンしました

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。