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壁を壊した米発の「世界」~マイケルをもういっちょう [洋楽]

今朝、読売新聞(6月29日付)を開くとアメリカ文学者の佐藤良明氏によるマイケル・ジャクソンの追悼文が掲載されていた。

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ファンの心痛に輪をかけ、死者を冒涜するかのような低俗なテレビ番組による面白半分の報道には、心底げんなりさせられた。しかし、とにかくこちらを読んでみて欲しい。僕のような素人にはとても書けない、これぞプロって感じの追悼文だと思います。

*--------------------引用----------------------*
マイケル・ジャクソンさんを悼む 壁を壊した米発の「世界」
佐藤 良明

 世界の十億人が、一生のうち十五年間、毎日平均一分間マイケルを見たり間いたりしたとして、その延べ約一千億時間という数値は、どのくらいの、どんな種類の力を作るのだろう?
 その力は、原爆や人工衛星と比較可能だろうか? アポ11号と、マイケルの「ムーン・ウォーク」は結局どちらが人類にとって大きな一歩となったのか?
 二十世紀はアメリカの世紀と言われるけれども、朝鮮でもベトナムでも中米中東いずれにおいても、アメリカは軍事的に勝ってはいない。それでいて、アメリカは東西冷戦に一方的に勝利した。どんな力によって?
  一九九二年の「デンジャラス・ワールド・ツアー」のDVDを見る。ブカレスト(ルーマニア)のステージに、ピタリと腰のきまったマイケルが立って、その手足と首がシャープに空を切るたび、観客の目が輝き、喉から叫声が発せられる。三年前まで独裁者チャウシェスクに抑えつけられていた心身が、解放を謳歌して弾んでいる。
 マイケルを中心のひとりとして組まれたUSAの歌手団が「私たちが世界である」(ウィ・アー・ザ・ワ―ルド)を歌ったのがこの七年前のことだった。そのあたりから、ソ連も東欧も-小規模ながら中国も-アメリカ発の「ザ・ワールド」とのつながりを求める若者たちに手を焼く展開になっていた。プレスリーの登場以来、<近代の壁>を壊しまくってきた力が、共産圏の体制までもゆさぶり出したのだ。

 考えてみれば <近代>とは、上品めかした文化を手にしたエリート市民が、「野蛮国」や「貧民層」を支配した時代だった。反ブルジョワを標榜する支配者が独裁的に治めた国でも、その構図は変わらない。近代では、身体の振り(スイング)やロック(揺り)やポップ(弾み)と違う、メンデルスゾーンの調べのようなものが誇示された。戦後のアメリカ歌謡に、「黒人のみだらさ」をもたらした美声の白人は、その壁に決定的な穴をあけたのである。
 エルビスから三十年、マイケルが地球の制圧に乗り出したのは、対抗文化だったロックが、フツーの人のフツーの気分に収まったのちの時代である。ロックのリズムをものにするのに時間がかかった日本でも、八〇年代なかばには、ピンクレディーで育った子供がティーンエイジャーになっていた。
 すでにテレビの時代だった。MTVが起ち上がり、ロックビートの視覚表現が必要とされていた。その需要にマイケルが生身の踊りで応えた。「音楽を見る」のは亜流という考えを、マイケルとマドンナが、文字通り体を張って粉砕したのである。
  だが歌と踊りが世界をつないだのは、それが最後だった。一九九〇年代以降のポップスに、差をつきくずす力はない。ヒップホップもJ-POPも、人種や民族のプライドに閉じこもりがちだ。サウンドと身体の快によって<現代>を組織してきたアメリカの、数十年におよんだ世界革命を最終的に仕上げた男、マイケル・ジャクソン。彼の死は、プレスリーの死に似て「英雄的」ではなかったようだが、その生は世界史に輝くだろう。

(アメリカ文学者)

*----------------引用おわり-------------------*

う~ん、素晴らしい。音楽ブログやってるからには、一度はこんな文章書いてみたいものです。
それでは、今日は手抜きということで、これにて。

  Black Or WhiteのHD画質がありました。
Thrillerも名作ですが、PVとしては僕はこちらの方が好きかも
マイケルが世界中の民族と踊るダンスが楽しげでいいですねぇ
後半の3分にも及ぶマイケルの無伴奏による凶暴なダンスが圧巻。





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コメント 15

まちびとん

ご訪問ありがとうございました。
テレビ番組での面白半分のコメントには正直うんざりします。
金髪のアメリカ人を結構目にしますが、なんだか上から目線で嫌な感じです。
誰が何を言おうが、彼の音楽は不滅ですね。
by まちびとん (2009-06-30 01:36) 

土佐のオヤジ

すごい文章ですねぇ。
結構感動してしまいました。
私も同感、こんな文章書いてみたいものです。


by 土佐のオヤジ (2009-06-30 11:38) 

U3

う~ん、わたしもこの様な文章を書いてみたいな。
by U3 (2009-06-30 12:03) 

kazn

TV番組ってほんとにバカバカしいです。
製作者がバカなのか、視聴者がバカなのか、どっちなんでしょうね。
悲しくなっちまいます。
by kazn (2009-06-30 20:21) 

ゆっぴー

はい、読売新聞みました。
私、となりぺージのバイオリスト古澤さんの記事に気を取られていました。
今、改めえて読んだのですが、思考力が高まった思いです。
なちゃさん、記事をアップしてくださってありがとうございます!!

by ゆっぴー (2009-06-30 22:04) 

ayumu

ぐっと来るコラムですね。
iTunesで曲をダウンロードしようと思いましたが、ほとんどの名曲はUpされてませんでした。Rock With Youをすぐ聴きたかったのに。。
MTVが全盛だった時代からいまの圧縮ファイルによる試聴の時代、、、だいぶ遠いとこまできましたね。
by ayumu (2009-06-30 22:57) 

sak

引用してくださっているの知らずに
新聞の方頑張って読んじゃってました(^^;
「音楽を見る」...素敵な表現ですね
マイケルは新しい音楽の聴き方、見方、楽しみ方を
作り上げてくれた気がします。

by sak (2009-07-01 09:33) 

なちゃ

まちびとんさん、ありがとうございます。
いやですね。『昔は凄かったけど今は変人』みたいな報道。
金髪のアメリカ人って、あの人ですよね?
何と言おうと、マイケルの音楽の価値が下がることはないと、思います。
by なちゃ (2009-07-01 22:09) 

なちゃ

土佐のオヤジさん、こんばんは。
いいコラムですよね。
こんな風にブログで引用していいのかな?と思いながら、読んで頂きたくてアップしました。
by なちゃ (2009-07-01 22:11) 

なちゃ

U3さん、こんばんは。
U3さんのブログの文章もすごいですよ~。
あの読み応え、いつも関心させられてます。
by なちゃ (2009-07-01 22:13) 

なちゃ

kaznさん、こんばんは。
マイケル逝去の報道、僕も全てを見たわけではないですが、腹が立つものばかりでした。
最近、テレビが本当につまらなくなりました。野球も阪神弱いし(笑)・・・・

by なちゃ (2009-07-01 22:20) 

なちゃ

ゆっぴーさん、こんばんは。
我々音楽ファンが、どのような人を失ったのか、少しでも伝わればいいなと思うんです。
まぁ僕が書いたわけじゃないっすけどね(笑)
by なちゃ (2009-07-01 22:23) 

なちゃ

ayumuさん、こんばんは。
ayumuさん、上手いこと言うなぁ・・・

>だいぶ遠いとこまできましたね。

良くも悪くも、本当にそうだと思います。
by なちゃ (2009-07-01 22:25) 

なちゃ

sakさん、こんばんは。
本当にそうですね…音楽という芸術をひとつ昇華させたと人だと思います。
マイケルのPVはどれも完成度が高く、今でも楽しめますね。

あ、疲れ目になったのでは?

by なちゃ (2009-07-01 22:30) 

なちゃ

niceをたくさん頂きまして、ありがとうございます。
by なちゃ (2009-07-01 22:31) 

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