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Smoke Gets In Your Eyes/Eddie Higgins [JAZZ]

eddiehiggins.jpg


2009年8月31日、ジャズピアニストのエディ・ヒギンズが亡くなりました。
日本のヴィーナス・レコードの看板ピアニストとして多くの録音を残し、日本人好みの選曲で多くのジャズファンから愛されていましたね。繊細で親しみやすいタッチと膨大なスタンダードのレパートリーの数々…聴き手を突き放すことなく美しいスタンダードのメロディで温かく包み込む彼の円熟したスタイルは、ヴィーナス・レコードへの貢献だけに留まらず、彼の作品からジャズに興味を持った音楽ファンも多かったのではないでしょうか。
フロリダ州のホリー・クロス病院にて、享年77歳。
僕もエディ・ヒギンズのアルバムはピアノトリオを何枚か所有していて、大好きなピアニストのひとりでした。

実はエディ・ヒギンズの訃報は、少し前にとても意外な人から知らされました。

Smoke Gets In Your Eyes.jpg

 

午前2時。職場から家まで運んでくれるタクシーを捜して手を挙げた僕の前に真白い個人タクシーが停まった。
乗り込んだ僕の視界に入ってきたのは、小奇麗な私服で運転席に座る運転手の後ろ姿と、上品なイルミネーションを発するカーコンポ。
僕はすぐに思い出した…『あ、あのときの運ちゃんだ』(その時のお話はこちら)。あぁ世の中なんてやっぱり狭い。僕は行き先を告げた。

えっと、新御堂筋を●津で降りて野●阪神の方へ…

……あ、●●●●のビルあたりじゃなかったですかね?

運ちゃんは一年近くも前に僕を運んだ場所を覚えていたようだ。プロの記憶力に僕は驚き、少し嬉しくなった。

車内には一年前と同じようにラジオではなく音楽が流れていた。エレガントにスイングするピアノにテナーサックス。運ちゃんはジャズも聴くみたいだ。タクシーには少々不釣合いなくらいに上等そうなカーコンポから後部座席に届くそのジャズは、働いて疲れた脳にも酔っ払いの朦朧とした脳にも、邪魔にならない程度のちょうど良い音量。まろやかなサブトーンで朗々と唄うテナーがの音色が心地よい。曲は『Smoke Gets In Your Eyes』に変わった。このまま家までのしばしの時間うとうとしていても良かったのだが、運ちゃんとの再会が嬉しくって会話を試みた。震えるようなテナーのサブトーンの主を訊ねてみたのだ。運ちゃんは前を見たまま少しだけボリュームを上げてから静かに答えてくれた。

スコット・ハミルトンみたいですね?

スコット・ハミルトンですよ。ピアノはエディ・ヒギンズですわ。……こないだ亡くなりましたけどね。

.....え?そうなんですか…亡くなったんですか

ええ、肺とリンパの癌でね…



They asked me how I knew my true love was true.
I, of course replied, "Something here inside, cannot be denied."
They said "Someday you'll find all who love are blind.
When your heart's on fire, You must realise, Smoke gets in your eyes."
So I chaffed them and I gaily laughed,
To think they could doubt my love.
Yet today, my love has flown away.
I am without my love.
Now laughing friends deride, Tears I can not hide,
So I smile and say, "When a lovely flame dies, smoke gets in your eyes"

 
みんながどうしてわかる と聞く
本当に愛してたかなんて・・ 
もちろん答えたよ
「この気持ち 打ち消せやしない」って
そしたら「恋は盲目 いつかわかる」と言われた
恋の炎が燃えてる時 
煙が目にしみるものなのさ・・・


きっと好きなピアニストだったんだろうなぁ…と、なんとなくすぐに分かった
愛するミュージシャンが逝ってしまった時…その音色に触れていたい気持ちなら僕にだってわかる
だから僕は会話を止め、音楽だけに耳を傾けた

晩年に音楽人生のピークを迎えたピアニストが燃え尽きた時の煙が、僕の目にも少ししみた。
運ちゃんには、また会えるような気がした。

R.I.P. from Japan


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nexus_6

素敵な運ちゃん、また会えるといいですね。

数年前、たまたま難波のタワレコで『If Dreams Come True』の
2曲目を試聴しました。
「こんな繊細なサマー・タイムは聴いたことが無い... 」
Eddie Higgins の名前も知らなかったのですが、只その音に惚れ込み
何も考えずに買いました。
ご冥福をお祈り申し上げます。
by nexus_6 (2009-09-27 09:08) 

chako

聴き手を突き放すことなく美しいスタンダードのメロディで温かく包み込む…最高の表現ですね。
不思議なタクシーとの出会いも、小説の一コマのようで、なんだか幻想的ですね。

by chako (2009-09-27 09:38) 

漢

素晴らしいお話……有り難う!
by 漢 (2009-09-27 11:05) 

空兵ーS

私もこのCD持っていますがエディ・ヒギンズの訃報は知りませんでした。
親しみやすい落ち着いた演奏ですよね。
ご冥福をお祈りします。
それにしても、粋なタクシー運転手さんがいるものですね。
by 空兵ーS (2009-09-27 22:34) 

kazn

「サブトーン」が「ザブトーン」に見えた私ってダメですよね。
by kazn (2009-09-28 22:06) 

sou-un

なちゃさん、こんばんは。

私も先日、彼の訃報を知ったのですが、すでに遺作となるアルバムも
リリース待ちの状態で(ラジオで聴きました。)、来日公演も決定していた
とのこと。

実は私。あまり彼のアルバムをジックリと聴いたことがないのですが、
これを機会に何枚かレンタルして聴いてみようかと思います。

素敵なお話、ありがとうございました。
by sou-un (2009-09-29 00:22) 

なちゃ

nexus_6さん、こんばんは。
ヴィーナス・レコードの作品はジャケットも素敵ですし録音も良いですね。
ベテランがまた一人去ってしまい、寂しいです。
by なちゃ (2009-09-30 23:59) 

なちゃ

chakoさん、ありがとうございます。
記事の運ちゃんに会ったのは2回目なんですが、どちらも印象的な家までの時間をすごしました。
陽気な運ちゃんも悪くないですが、タクシーで好きな音楽が流れてるとか、嬉しいですね。
by なちゃ (2009-10-01 00:03) 

なちゃ

漢さん、ありがとうございます。
またいつか会えるような気がしてなりません。
by なちゃ (2009-10-01 00:04) 

なちゃ

空兵ーSさん、こんばんは。
僕は逆に、このCDもってなかったんです(笑)
ヒギンズとハミルトン、煙が目にしみる で検索してたどりついて、レンタルしました。
ずっと乗ってたいような、めちゃ素敵なタクシーでしたよ。

by なちゃ (2009-10-01 00:07) 

なちゃ

kaznさん、こんばんは。
ザブトーンですか。おもしろいのでOKです(笑)
by なちゃ (2009-10-01 00:09) 

なちゃ

sou-unさん、こんばんは。
来日予定だったんですか・・・・残念です。
直前までピアノを弾いていたんですね。。。。
エディ・ヒギンズはレンタルでも多く見かけますよね。やっぱ人気あるんでしょうね。

ところで、幣ブログのサイドバーに、sou-unさんのブログのリンク貼らせて頂きました。今後ともよろしくお願いいたします。
by なちゃ (2009-10-01 00:13) 

なちゃ

niceを下さった皆様、ありがとうございます。
by なちゃ (2009-10-01 00:14) 

sou-un

なちゃさん、こんばんは。
リンクして頂いてありがとうございます。
先日、気が付いて、私のブログの方にもなちゃさんのブログのリンクを貼ら
せて頂きました。こちらこそ、今後ともよろしくお願いします!
by sou-un (2009-10-01 22:35) 

なちゃ

sou-unさん、こんばんは。
リンクありがとうございます。
ためになるジャズ情報、楽しみにしてまーす。
by なちゃ (2009-10-03 21:27) 

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