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君を想って海をゆく [映画・テレビ]

舞台は港町カレ
ドーバー海峡を挟んでイギリスの南に位置するフランス北端の町
(ちょいネタバレあり)

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家族とイギリスに移住した恋人に会うために、イラクから4000キロの距離をを歩いてカレにたどり着いたクルド難民の少年ビラル。イギリスへの最後の関門はドーバー海峡越えだ。
厳しい監視を掻い潜り、ビラルはトラックの荷台に身を隠しフェリーでの密航を試みるも失敗、捕らえられ裁判に掛けられるが、イラクが戦渦にあることと初犯であるという酌量から、難民として町に放り出される。進むことも帰ることもままならず呆然と海を眺めるビラル。彼に残された海を渡る手段は、自力で泳ぐことしかなかった。

なけなしの金でプールで泳ぎを習得しようとするビラルと出会ったシモンは、もと競泳のメダリストでありながら今は市民プールの水泳コーチに甘んじている、さえない中年男。妻とは離婚協議中で、まだ愛していながらも愛情を取り戻す術になげやりな日々を送っていたが、無謀を無謀とも思わず屈託なく前を向くビラルと接するうちに、息子への愛にも似た感情を抱くようになる。
シモンはビラルに水泳を教えながら罪を承知で家に匿い、ビラルは持ち前の運動神経を発揮して泳力を上げていく。
しかしある日、シモンはビラルの恋人・ミナからの電話で、ビラルへの気持ちを聞かされ現実を知ることになる・・・・・

「待ってやれ、彼は海峡を渡れる。」

 

 

遥か海峡を越えた地に暮らす恋人との距離、目の前にいるのに修復できない男と女の距離・・・
愛する人も同じ気持ちなのだと信じて極寒の海でさえ希望へ繋がる道だと疑わぬ少年と、愛する妻への思いを捨て切れず離婚を目前に鬱屈した日々を送る男。それぞれの思いの前に立ちはだかる『物理的な距離』と『心の距離』の描き方がやるせなく切ない。
『君を想って海をゆく』・・・甘いラブストーリーを連想させられるタイトルなのだが、その要素は極めて希薄で、むしろ「人間としての最低限の尊厳」を頼りに生きているクルド難民の姿や、それを徹底的に拒み差別するだけでなく同情の念すらも犯罪と定義し排除しようとするフランスにおける難民情勢の現実、そして少年と男それぞれが感じる『孤独』が、寒々しい北の港町を背景に、ミラクルやファンタジーとは無縁なストーリーで、はかなく淡々と描かれてゆく。

原題は『WELCOME(ようこそ)』。これは非情ともいえる『自由の国フランス』の難民政策への抗議の意味を込めた皮肉に他ならないだろう。
同じ人間として生まれながら、国家や「生い立ち」には抗えない・・・そんなどうしようもない不条理が、灰色に冷たく荒れる海原にひとり身を投げ出し泳ぐ少年のどうしようもない無力感と重なるようで・・・あまりにも悲しい。


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コメント 2

ノーバッド

難しいそうな内容かと・・・・
たぶん寝ちゃうと思います (^^ゞ
by ノーバッド (2011-09-22 11:25) 

なちゃ

ノーバッド さん、こんにちは。
僕も最初見ながら「こりゃ寝るな」と思ってましたが、そうでもなかったですよ^^
by なちゃ (2011-09-25 18:19) 

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