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Come Today/渡辺貞夫 [JAZZ]


「痛みの度合いは 喜びの深さを知るためにある」
(アルバムライナーより。チベット格言)

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”IN TO TOMORROW” から ”COME TODAY” へ・・・

人は皆、今日を生きて、明日を思い、また今日を迎える。生きている限り抗う術はなく、人はどうしようもなくそれを繰り返す。昨日(Yesterday)を今日にして生きることはできないのだ。そんな単純で当たり前な繰り返しの中で、やがてかけがえのない大切な人と出逢い、同じリフレインを奏でながら時間を刻む。それを繰り返せば繰り返すほど、ともに見届けた”今日”が多ければ多いほど・・・深い悲しみに見舞われることもある。

ちょうど2年前にリリースされた前作と全く同じメンバーで録られた続編的なアルバムではあるが、かなり雰囲気を異にしているように僕は感じた。
時には南半球の海の細波を、時にはアフリカの大地を、時にはロスの照りつける太陽を、時にはニューヨークの活気に満ちた雑踏を音にかえて、僕らに届けてくれたナベサダの音楽。僕が知る限りの、そんな渡辺貞夫の数多のアルバムの中でも、最も静かで・・・いや、上手くは云えないが、どこかしら『悲しみ』が漂っているというか、覆われている、というか・・・

前作『IN TO TOMORROW』の、よく晴れた朝をイメージさせる空色や、息子のような若さのメンバーに触発されたプレイに対して、本作での音像やジャケットの色調には、同じ日々を生きてきた最愛の人への、そして、あの日突如この国を襲ったあまりにも大きな悲しみへの、渡辺貞夫の思いが込められているのではないか・・・と、僕は想像する。
そういう意味では、ファンにとっても(少なくとも僕にとっては)忘れ得ぬアルバムのひとつになるだろう。

六十年もの間、ジャズを愛しジャズを生業とし続ける男の、通算71枚目のアルバム『COME TODAY』。木管の鳴りを極めたかのようなアルトの音色が、自らのペンによる10曲全編で響きわたり、凡百な言葉以上に胸を熱くする。おそらく御夫人に贈られた⑨『She’s Gone』の、神秘的ともいえる美しく深いサブトーンで奏でられるメロディは、男が人知れず流す泪の一すじ・・・僕には、そう聴こえてならない。

そして男は、また明日を見据えてジャズの道を歩き出すのだ。『Lullaby』(子守唄)の向こうにある”Tomorrow(明日)”が、より素晴らしき”Today(今日)”となって、訪れることを信じて。

ベスト・トラック
9.She’s Gone
4.What I Should
5.I Miss You When I Think of You


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ゆっぴー

私は、まだ、このアルバムを聞けていません。

なちゃさんの深いご感想、心して読ませていただきました。
アルバムメンバーでのライブを聞きたかったのですが、
レコーディングだけでも3日間とるのが大変だったようですね。
アルバムを聞ける日を楽しみに頑張ります!!


by ゆっぴー (2011-10-06 21:53) 

そらへい

冒頭の格言、言い得て妙ですね。
快感は苦しみからの脱却の時に一番盛り上がります。
苦しみを知らないと喜びも快感もわからないですね。
もちろん、ナベサダさんはそんなことはとっくにお見通しで
サックスを一見気持ちよさそうに吹いているのだと思います。



by そらへい (2011-10-08 21:57) 

なちゃ

ゆっぴーさん、こんにちは。
8月のライブでも演奏されてましたよね。年末のコンサートはピアノのクレイトンが来れないようですね・・・
僕にとっては、心に残るアルバムになりそうです。
by なちゃ (2011-10-09 11:32) 

なちゃ

そらへいさん、こんにちは。
今ナベサダが吹いているシルバーのアルトは、とてもコントロールが難しい楽器だそうです。演奏を愉しみ、より良い音を出すために、敢えてそんな楽器に挑んでいるらしいです。そんな楽器で良い音で吹けたら気持ちいいでしょうね。
by なちゃ (2011-10-09 11:42) 

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